小児外科

私たちの治療の基本方針は、「手術を受ける子供たちの低侵襲化を第一に考える」、ということです。
小児の心臓手術の多くは、心臓を止めて、心臓の内部を治します(開心術)。この間、全身の酸素供給を行う為に、心臓と肺の代わりをしてくれる「人工心肺」という大掛かりな装置を使用します。「人工心肺」は大きな進歩を遂げ、より安全に心臓手術を行うことが可能になりつつある一方、心臓や肺の代わりを機械にさせるという非常に特殊な環境は、特に小さな子供において、心臓だけでなく、肺や脳を含めた全身臓器に想像以上の影響をもたらします。従って、目に見えない 侵襲をも考慮し、如何に身体への負担が少ない手術を目指すかが最も重要と考えます。単に手術が順調に終了したから良いとするだけでなく、入院から退院、もしくはその後の学校生活や社会生活における総合的なquality of lifeをも見越した手術を考える必要があります。
現在、新生児から成人まで、年間約500件の先天性心疾患手術を施行していますが、各疾患および個々の患者さん毎に、さまざまな低侵襲化対策を行なっています。

副院長 高橋幸宏

体外循環(人工心肺)

心臓手術では、身体から心臓に戻ってきた血液を心臓に入る直前で人工心肺装置へと誘導し、人工肺で酸素を与え、心臓から身体へ向かう大動脈へと返します。
体外循環中は、血液がチューブなどの異物と接触することにより、白血球やリンパ球が活性化され、さまざまな血管作動性物質を放出します。この物質が全身組織に様々な炎症反応を引き起こします。したがって、いかにこの炎症反応を抑えるかが「低侵襲」へのポイントとなります。血液が通過する人工肺やチューブ内の容量を減少させ、血液との接触面積を減らすことで、炎症物質を抑えるとともに、血液透析器を用いて、濾過や吸着により、血管作動性物質を除去することが可能であり、この点に関するより優れた装置の研究・開発を日進月歩で取り組んでいます。

皮膚小切開

傷を小さくすること(小切開)自体がはたして低侵襲と言えるかどうかに関しては多くの議論があります。しかしながら、大きな傷跡は心の傷となる可能性があると考えます。傷が残ることは手術ではやむを得ないことですが、なるべく小さく切開し、精神的負担の軽減を図ること、このような意味では小切開=低侵襲と言って良いと思います。もちろん、手術の安全性の優先が最も重要ですが、子供たちの病気の種類や手術方法に合わせて、最も安全、かつ、小さな切開で行うよう努力しております。

無輸血手術と血液使用量の削減

無輸血手術と血液使用量の削減には、輸血が引き起こす問題点の回避という観点から低侵襲を目指す目的があります。輸血には、ウイルス感染以外にも、血液内の血管作動性物質による非溶血性副作用など、臨床経過に影響を与える問題も多く存在しています。このため我々は無輸血手術が可能な症例では積極的に無輸血に取り組み、輸血が必要となる症例でも、可能な限り血液使用料を削減することに取り組んでいます。

手術・麻酔時間の短縮

手術は、当然、安全かつ確実に行うことが重要です。しかし、前述したように体外循環は身体に大きな侵襲をもたらしますので、その時間を短縮させることが最も重要となります。一方、手術自体や麻酔そのものも、身体への大きな侵襲の一つです。従って、すべての時間を総合的に短縮させることが、小児心臓外科での最も重要な低侵襲対策と考えます。
 心臓手術はチーム医療と言われますが、如何にスムーズでスピーディーな手術ができるかどうか、このことが本当の意味でのチームワークであり、小児心臓外科医が目指すチーム医療と考えております。

適切な手術のタイミング

心臓手術の低侵襲を考える上で、「最良のタイミングで手術を行う」ということが非常に重要です。近年、内科的治療の進歩により手術の適応は大きく変化してきています。当院では経験豊かな小児循環器科医と連携し、術前の状態の改善を図ることで、より安全に、より積極的に手術の適応を広げるよう務めています。
他施設よりご紹介いただいた患者さん、セカンドオピニオンで来院された患者さんに対しても、不必要にお待たせすることなく最良のタイミングでの手術を提案させて頂きます。

成人先天性心疾患に対する取り組み

成人された後の先天性心疾患に対する手術だけでなく、小児期に手術を受けられた方の遺残病変に対する再手術が増加しております。成人期においては、個々の疾患に対する手術手技だけでなく、弁、冠動脈、大動脈疾患の合併手術、不整脈に対する外科治療(Maze手術)や心機能の改善に効果のある両心室ペースメーカー(心室再同期療法)などの複合した手術も数多く取り組むようになりました。成人先天性心疾患手術では、糖尿病などの成人特有の全身性疾患を有することがあり、また、前回の手術による癒着の影響から長時間の手術が必要となることから、手術による合併症の発生が比較的多くなることが予想され、前述した低侵襲化対策が厳密に必要となります。特に、フォンタン型手術およびその再手術においては、再手術前の心機能低下や弁機能不全などを小児科的もしくは内科的に十分に治療し、最適のタイミングで再手術を行うことが、成績向上に最も重要であります。
「成人先天性心疾患」に関しては、「先天性」が専門の小児科が担当するのか、「成人」が専門の内科・外科が担当するのか、ということは現在、全国的にも議論になりつつあります。当院は循環器専門病院として、開院以来、生直後から一生を通じて患者さんのフォローをさせて頂いております。現在、年間約70例を超える成人先天性心疾患手術を施行していますが、我々はこの分野でも長年の多くの経験と専門的な知識に加え、前述した低侵襲対策を十分に行うことにより、非常に良好な結果を得ています。